スイスにおける中山間地政策の展開と今後の方向性(Draft 5)

REPORT 活動報告

スイスにおける中山間地政策の展開と今後の方向性(Draft 5)

法政大学大学院政策科学研究科 法政大学地域研究センター 田口 博雄

【はじめに】
スイスとわが国とを比較すると、国の規模や地方分権などの面では大きく異なるものの、①世界有数の先進工業国であること、②国土に占める山岳地帯の比率が極めて高いこと、③国内農業を強く保護してきたこと、④社会・治安が比較的安定していること、などの面では、かなりの類似性を有している。

そのスイスにおいて、近年、地域政策体系の大きな転換が行われている。すなわち、地域政策の根本的な再構築を内容とする政府案(Neue Regionalpolitik<以下NRP>)が、2006年10月6日にスイス国会において議決され、2008年から実施されることとなった。

本稿は、スイスが、山岳地帯を中心とした経済的困難地域に関し、どのような政策的対応を行ってきたかを概観するとともに、最近の政策転換の背景や考え方について整理し、わが国における地域政策、なかんずく地域振興政策を考えるうえでの一助とすることを目的としたものである。

わが国では、平野・臨海地域を中心に立地する都市部から離れ、経済的な困難を抱えている地域については、1980年代後半より、「中山間地問題」として議論されてきた。いうまでもなく、わが国における「中山間地」という概念は、山岳地域のみならず、より高度の低い地域も含むものである。

ただ、スイスでも、上記のような地域政策は、当初はアルプスの標高の高い山岳地域を意識したものであったが、その対象はより標高の低い地域にも拡大し、大都市圏から離れた地域を対象とする傾向を強めてきた。例えば、最近の政策では、政策困難地域支援策の対象を、「山岳地帯(Berggebiete)および田園地域(Ländliche Gebiete)」とするものもが少なくない。

そこで、本稿では、煩雑さを軽減するため、わが国で一般につかわれている「中山間地域」という表現を、スイスの場合にも用いることとしたい。

本稿により浮き彫りとなったのは、次のような点である。
スイスは、国全体の国際競争力が相対的に低下をみているという危機感などから、地域政策も、よりイノベーション指向の強いものに再構築しようと試みている。

これに対しては、当然ながら既存の地域政策の受益地域を中心とした反発がある。そうした反発に妥協しつつも、政策の大きな重点は確実にシフトしつつある。すなわち、新地域政策(NRP)では、①地域自身のイニシアティブ、政策形成能力の重要性が、より鮮明になっており、また、②政策の重点がインフラ整備というハード指向から、地域アクター間の連携強化という、ソフト志向に移りつつある。

さらに、③地域の特性をうまく打ち出すことができる地域と、そこで壁にぶつかっている地域との差が明確になってきているように思われる。これらは、ある意味では当然のことではあるが、わが国の中山間地域とも、かなり共通点をもっているといえよう。